その他 2023/09/05(Tue) 『正体』 (Audible Studios)先週仕事しながら読了(聴了?)しました通勤時間に感想を書き溜めてたんだけど長くなってしまった続きを読む少年死刑囚で脱獄犯の鏑木慶一が一体どういう人物なのか、逃走中に出会った様々な人たちの目線で描かれる…というこの本人ではなく関係者の語り口でその人を描く構成がめちゃくちゃ好きなので凄く凄く良かった あと凡そ時系列順に描かれてはいるものの各章ごとに潜伏先が変わっており時間が飛び飛びで、潜伏先の人物視点で物語が動くので幕間に鏑木が何をしていたのかは読者には知りようがないんだけど、前章で偶然闇医者の存在を知った鏑木が少し時間が飛んだ次章では整形して登場してくるとか点と点が繋がる描写があって、直接言及せずとも暗に匂わせる仕様になっておりこういう魅せ方たまらんな~~となった 二次創作が捗るやつ…各章の各潜伏先で鏑木と縁を持った人たち、男も女も関係なくみんな鏑木の人柄に惚れ込んでいっちゃうんだよね 語り部が誰より好意を抱いてるので読んでるこっちも必然的に好きになるやろがッ…と思いつつ中盤くらいまでは逆にそれが怪しくもある(あくまでも一家惨殺した死刑囚なので)おかげである程度フラットな気持ちで読み進められてたんだけど、後半入って語り部4人くらいまで来てるのに尚揺らぐことのない人柄の良さに、もしやこれ…マジのやつ…?と思ってからはもうダメになり『鏑木慶一絶対に捕まらないでくれの気持ち100%』になった この時点で今後ハピエンになる予感は正直まったく無い キツいそれでも殺人は本当にやってるものだと思い続けてたものだから、終盤でそれがマジのマジで偶然と不運が積み重なっただけの冤罪だと明かされた時はキツい通り越して愕然とした え、じゃあ鏑木慶一は何の罪も犯してないのにこんな…日本中の誰よりも孤独な、人の目を避けながら擦り切れるような逃亡生活を…?闇医者の整形だけでなく自分の手でも顔を弄ったようだがそんな痛みと恐怖も独りで…?耐えて…?何もしてないのに?それもまだ未成年の子供が…?ひ、独りで…?え、ハァ…?あまりの理不尽に泣いてしまった 心がボコボコにされて跡形もない初めてのお酒、初めての恋、初めてのスノボ…ゔっ…ハァ施設育ちで人より経験してる物事が少ないにもかかわらず400日以上警察の目を掻い潜ってこれたのは読書好きで学があったからで潜伏した先々で人に好かれ助けられたのは人一倍思慮深さがあったからだけど、でもその読書好きと優しい性格こそが殺人現場遭遇のきっかけとなり知識があったから行えた適切な救命活動が不利な状況証拠を生み出してしまった そんな真相が最後に明かされるという構成、あまりにつらい こんなにやるせないことある?しかもこんな絶望下でそれでも希望を捨てず生きること(逃げ続けることではなくまっとうな社会生活を送ること)を諦めず冤罪を晴らすため奔走し続けていた…独りで…というのがもうさあ 元々施設育ちで家族という味方もいない境遇で更に世間全てが敵であるという真に孤独の中、たった独りで…まだ20にもなるかならないかの子供が…つらすぎて泣いてしまう 文庫版の表紙が本当にピッタリなんだよね 読み終わってから表紙を見返したら呻き声しか出せなくなったエピローグで各章の鏑木大好き勢たちが集結したところはニヤっとしちゃった 全員が集うとは思ってなくて 最終的には鏑木アベンジャーズたちの尽力により冤罪を晴らす結末を得られて良かった、良かったんだが 鏑木自身はもういないので心の穴が凄まじい 鏑木慶一が死んでようやく鏑木慶一の絶対的味方が存在を強めていくんだよ 鏑木自身が狙っていたとおり結果的に世論を味方に付けたのかなと思うけど、鏑木が生きてたら果たしてまったく同じ結果を得られただろうか?と考えたら一筋縄ではいかないと思うな…悲しいかな火のないところに煙は立たないと人間(日本人?)の意識にどこかしら根付いているために、犯罪者だと吊し上げられた時点で真実そうじゃなかったとしても一度生まれた疑念が100%消え去ることは人の心理としてそう無いと思うんだよね例えば誰かが夜道を歩いてて通り魔に襲われたとして、通り魔よりまず被害者に対して「夜に出歩くのが悪い」などと言及しがちなのは人間って問題に対して『解決したい』って欲求が働くからで、見も知らぬ通り魔の暴漢に物申すより目の前にいる被害者に直接解決を求める方が手っ取り早く欲求を満たせるためそうなっちゃう…って何かのラジオ…?本…?で聞いたことがあるんだけど、鏑木慶一についてもきっと、冤罪として漠然とした警察検察やポッと出(のように世間からは見える)の真犯人に疑いや批判を向けるよりも既に認知度が高く明確な当事者である鏑木にどうこう言う方がずっと楽だと思うんだよね 鏑木が死んで動かなくなって「解決を求められない存在」になって初めて心が動いた層は少なくないんじゃないかな結局最初に鏑木の無実を心から信じたのは火のないところにも煙は立つことをその身で知っている渡辺で、逆にあれだけ鏑木を愛していた沙耶香がそこに至りきれなかったというのはとてもリアルだなと思ったなんか…鏑木慶一の知力と人徳が身を結んだ部分とそれでもどうにもならなかった部分のどちらもちゃんと納得できる(させられる)ようになっていて、言い方が悪いけどフィクションとしてとても気持ちのいい理不尽だった 久々に物語に情緒をめちゃくちゃにさせられた Audibleで聞いたけど文庫も買う畳む favorite 🙏
先週仕事しながら読了(聴了?)しました
通勤時間に感想を書き溜めてたんだけど長くなってしまった
少年死刑囚で脱獄犯の鏑木慶一が一体どういう人物なのか、逃走中に出会った様々な人たちの目線で描かれる…というこの本人ではなく関係者の語り口でその人を描く構成がめちゃくちゃ好きなので凄く凄く良かった あと凡そ時系列順に描かれてはいるものの各章ごとに潜伏先が変わっており時間が飛び飛びで、潜伏先の人物視点で物語が動くので幕間に鏑木が何をしていたのかは読者には知りようがないんだけど、前章で偶然闇医者の存在を知った鏑木が少し時間が飛んだ次章では整形して登場してくるとか点と点が繋がる描写があって、直接言及せずとも暗に匂わせる仕様になっておりこういう魅せ方たまらんな~~となった 二次創作が捗るやつ…
各章の各潜伏先で鏑木と縁を持った人たち、男も女も関係なくみんな鏑木の人柄に惚れ込んでいっちゃうんだよね 語り部が誰より好意を抱いてるので読んでるこっちも必然的に好きになるやろがッ…と思いつつ中盤くらいまでは逆にそれが怪しくもある(あくまでも一家惨殺した死刑囚なので)おかげである程度フラットな気持ちで読み進められてたんだけど、後半入って語り部4人くらいまで来てるのに尚揺らぐことのない人柄の良さに、もしやこれ…マジのやつ…?と思ってからはもうダメになり『鏑木慶一絶対に捕まらないでくれの気持ち100%』になった この時点で今後ハピエンになる予感は正直まったく無い キツい
それでも殺人は本当にやってるものだと思い続けてたものだから、終盤でそれがマジのマジで偶然と不運が積み重なっただけの冤罪だと明かされた時はキツい通り越して愕然とした え、じゃあ鏑木慶一は何の罪も犯してないのにこんな…日本中の誰よりも孤独な、人の目を避けながら擦り切れるような逃亡生活を…?闇医者の整形だけでなく自分の手でも顔を弄ったようだがそんな痛みと恐怖も独りで…?耐えて…?何もしてないのに?それもまだ未成年の子供が…?ひ、独りで…?え、ハァ…?あまりの理不尽に泣いてしまった 心がボコボコにされて跡形もない
初めてのお酒、初めての恋、初めてのスノボ…
ゔっ…ハァ
施設育ちで人より経験してる物事が少ないにもかかわらず400日以上警察の目を掻い潜ってこれたのは読書好きで学があったからで潜伏した先々で人に好かれ助けられたのは人一倍思慮深さがあったからだけど、でもその読書好きと優しい性格こそが殺人現場遭遇のきっかけとなり知識があったから行えた適切な救命活動が不利な状況証拠を生み出してしまった そんな真相が最後に明かされるという構成、あまりにつらい こんなにやるせないことある?
しかもこんな絶望下でそれでも希望を捨てず生きること(逃げ続けることではなくまっとうな社会生活を送ること)を諦めず冤罪を晴らすため奔走し続けていた…独りで…というのがもうさあ 元々施設育ちで家族という味方もいない境遇で更に世間全てが敵であるという真に孤独の中、たった独りで…まだ20にもなるかならないかの子供が…つらすぎて泣いてしまう 文庫版の表紙が本当にピッタリなんだよね 読み終わってから表紙を見返したら呻き声しか出せなくなった
エピローグで各章の鏑木大好き勢たちが集結したところはニヤっとしちゃった 全員が集うとは思ってなくて 最終的には鏑木アベンジャーズたちの尽力により冤罪を晴らす結末を得られて良かった、良かったんだが 鏑木自身はもういないので心の穴が凄まじい 鏑木慶一が死んでようやく鏑木慶一の絶対的味方が存在を強めていくんだよ 鏑木自身が狙っていたとおり結果的に世論を味方に付けたのかなと思うけど、鏑木が生きてたら果たしてまったく同じ結果を得られただろうか?と考えたら一筋縄ではいかないと思うな…悲しいかな火のないところに煙は立たないと人間(日本人?)の意識にどこかしら根付いているために、犯罪者だと吊し上げられた時点で真実そうじゃなかったとしても一度生まれた疑念が100%消え去ることは人の心理としてそう無いと思うんだよね
例えば誰かが夜道を歩いてて通り魔に襲われたとして、通り魔よりまず被害者に対して「夜に出歩くのが悪い」などと言及しがちなのは人間って問題に対して『解決したい』って欲求が働くからで、見も知らぬ通り魔の暴漢に物申すより目の前にいる被害者に直接解決を求める方が手っ取り早く欲求を満たせるためそうなっちゃう…って何かのラジオ…?本…?で聞いたことがあるんだけど、鏑木慶一についてもきっと、冤罪として漠然とした警察検察やポッと出(のように世間からは見える)の真犯人に疑いや批判を向けるよりも既に認知度が高く明確な当事者である鏑木にどうこう言う方がずっと楽だと思うんだよね 鏑木が死んで動かなくなって「解決を求められない存在」になって初めて心が動いた層は少なくないんじゃないかな
結局最初に鏑木の無実を心から信じたのは火のないところにも煙は立つことをその身で知っている渡辺で、逆にあれだけ鏑木を愛していた沙耶香がそこに至りきれなかったというのはとてもリアルだなと思った
なんか…鏑木慶一の知力と人徳が身を結んだ部分とそれでもどうにもならなかった部分のどちらもちゃんと納得できる(させられる)ようになっていて、言い方が悪いけどフィクションとしてとても気持ちのいい理不尽だった 久々に物語に情緒をめちゃくちゃにさせられた Audibleで聞いたけど文庫も買う
畳む